入社オリエンテーション当日、私は百四十一人の新入社員が集まる会場にいた。
壇上に立った女部長は、マイクを握りながら淡々と研修の意義を語っていたが、次の瞬間、突然私の名前を呼び上げた。
「飯田君、前に来てください」
嫌な予感は的中した。
彼女は、内定者研修での態度や議論の様子を一方的に切り取り、「上司への態度がなっていない」「中身が空っぽ」と断じた。そして決定打のように、こう言い放ったのだ。
「皆さん、この高卒の無能みたいには絶対になってはいけませんよ」
会場は笑いに包まれた。百人以上の嘲笑が一斉に向けられ、床が揺れたように感じた。
私はその場で理解した。これは指導ではない。見せしめであり、人格否定だと。
席に戻った瞬間、胸の奥で何かが静かに切れた。
私は再び壇上に上がり、部長の手からマイクを受け取った。
「では、辞めます」
ざわめきが悲鳴に変わる中、私は会場を後にした。
入社初日にして退職。それが私の選択だった。
翌日、女部長から震える声で電話がかかってきた。
「社長から……彼を戻さなければ君はクビだと言われました」
理由はすぐに分かった。
私はただの高卒新入社員ではなかった。高校時代から友人二人と立ち上げたSNS運用代行会社は、すでに実績を上げ、同社に買収される直前だったのだ。その事実を、社長だけが知っていた。
後日、社長室で女部長は深く頭を下げた。
「無能なのは私でした」
私は静かに答えた。
「戻ります。ただし、誰も人前で見下さない会社であることが条件です」
こうして私は会社に戻った。
入社オリエンテーションで笑われた高卒は、組織の在り方を変える存在として、正式に迎えられたのだった。
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=PBQc_eHzd3s,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]