冴えない経理――それが、社内での私の評価だった。
私は北川誠、三十五歳。
地方支社で経理として五年間、数字と向き合い続けてきた。半年前に本社へ異動したが、業務量は増え、人間関係も希薄で、相変わらず目立たない存在だった。
淡々と働き、淡々と生きる。それが一番楽だと、いつからか思うようになっていた。
ある金曜日の夕方、デスクを片付けていると営業部長に声をかけられた。
「北川君、少し時間いいかな」
温厚で世話焼きな部長は、少し言いづらそうに切り出した。
「実は……お見合いの話なんだ。娘の友人で、どうしても会ってほしい人がいてね」
一瞬、言葉を失った。
恋愛から距離を置いて生きてきた私に、お見合いなど想像もしていなかったからだ。
だが、日頃世話になっている部長の頼みを断ることはできず、私は「一度だけなら」と了承した。
週末、指定されたのは由緒ある日本料亭。
庭園を望む個室で待っていると、静かに襖が開いた。
入ってきたのは、清楚な雰囲気の女性だった。
黒髪をきちんとまとめ、落ち着いた佇まい。年は二十代半ばだろう。
だが、彼女は私の顔を見るなり、大きく目を見開いた。
「……やっと、やっと見つけました」
震える声。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=mPdhwhp7qIk,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]