東京本社への異動――。
地方支社で働く社員にとって、それは単なる配置換えではなく、出世への切符であり、努力が認められた証でもある。
その年、私の名前が有力候補として挙がっているという噂は、部署内ですでに広まっていた。
周囲の同僚からも「今回は山本だろう」と言われ、私自身も内心では覚悟を決めていた。
私は山本、三十五歳。
食品会社の地方支社で企画開発部に所属している。中学卒業と同時に工場勤務から社会に出て、現場、正社員登用、適性試験を経て今の部署にたどり着いた。学歴はないが、家庭の事情で培った生活者目線と、地道な実績だけは誰にも負けない自負があった。
そんな折、昼休憩中の社員食堂で、同僚たちと本社異動の話題で盛り上がっていた時だった。
「夢を見るのは勝手だがな」
低く、鼻につく声が割り込んできた。
振り向くと、課長の戸塚が腕を組んで立っていた。
「中卒は田舎で一生終えろ。東京本社は、大卒の俺みたいなエリートが行く場所だ」
あからさまな嘲笑。
同僚たちは険しい顔をしたが、私は何も言わず、ただ笑ってみせた。
戸塚は有名大学卒を誇りにする自称エリートだが、仕事の成果は乏しく、部下に丸投げするタイプだった。にもかかわらず、なぜか自信だけは異常にあった。
その理由は、二週間後に明らかになる。
人事異動の正式発表。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=5KmiYK4qm4I,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]