朝、駐車場へ向かった私は、自分の車を見て言葉を失った。
白いボンネット一面に、ケチャップやマヨネーズのような物が塗りつけられていたのだ。赤と黄色の液体で意味不明な文字や顔まで描かれ、乾き始めたソースがフロントグリルへ垂れている。
普段は温厚な私でも、さすがに腹が立った。
だが、すぐに洗い流すことはしなかった。まず全体と汚れを写真に残し、警察へ相談した。
食品に見えても、中に塗装を傷める物が混ぜられている可能性があるため、素手では触らないよう注意された。
車は前夜20時に駐車し、朝7時に被害を発見した。その間に何があったのか。
最初に確認したのは、車に搭載していた駐車監視機能だった。しかし犯人は車体を強く揺らさなかったらしく、決定的な映像は残っていない。
そこで私は、隣家と駐車場の管理会社に防犯カメラの確認を頼んだ。
すると23時17分、パーカー姿の若者3人がコンビニ袋を持って駐車場へ入る姿が映っていた。1人が周囲を見張り、残る2人がボンネットへ何かを絞り出している。さらに逃げる際、1人が袋を落としていた。
私は証拠をまとめ、警察へ提出した。
翌日、近所に住む高校生の母親が、息子を連れて家へやって来た。
ところが母親は謝る前に、こう言った。
「子どものいたずらですよね? 水で洗えば落ちるでしょう」
私は感情的にならず、洗車専門店でもらった見積書を差し出した。
ソースが隙間へ入り込み、特殊洗浄とコーティングの補修が必要で、費用は78,000円。さらに、ボンネットには硬い容器でこすった細かな傷まで見つかっていた。
「いたずらかどうかではなく、他人の車を故意に汚した事実の話です」
続けて、防犯カメラの静止画と警察への相談記録をテーブルに並べた。
母親の顔から笑みが消えた。
高校生は最初、「自分は見ていただけ」と言い張った。しかし映像には、彼がマヨネーズの容器を握り、車へ文字を描く姿がはっきり残っていた。
結局、3人の保護者がそろって謝罪し、洗浄代と補修費を全額負担することになった。
高校生たちは自分の小遣いとアルバイト代から、毎月少しずつ親へ返す約束をしたという。
数日後、きれいになった車を受け取りに行くと、店員から「早く相談して正解でした」と言われた。
高校生本人も改めて訪れ、深く頭を下げた。
「友達に面白いと言われ、断れませんでした。本当にすみません」
私は許したが、最後に1つだけ伝えた。
「笑っているのが犯人だけなら、それは遊びじゃない。次は友達より、自分の良心を選べ」
犯人探しは怒鳴り込みでは終わらなかった。
写真、時刻、防犯映像、見積書。冷静に証拠をそろえたことで、壊された車も、曖昧にされかけた責任も、きちんと元に戻すことができた。