赤信号で停車した瞬間、バックミラーいっぱいに白い軽トラックが迫ってきた。
車間距離は、ほとんどない。
その軽トラックは少し前から、私の後ろにぴったり張りつき、何度も左右へ車体を振っていた。制限速度を守って走っているだけなのに、パッシングまで繰り返してくる。
車体には「神宮」という文字が見えた。
しかし、それだけで特定の神社や団体の関係者とは断定できない。
私は所属先へ直接苦情を入れるのではなく、まず安全を確保することにした。
信号待ちの間も、運転手はハンドルをたたき、こちらをにらんでいる。怖くなった私はドアをロックし、窓を閉めたまま警察へ電話した。
「後ろの軽トラックに、ずっとあおられています」
現在地、進行方向、車の色を伝えると、警察官から「停車して話し合おうとせず、人目のある場所へ向かってください」と指示された。
青信号になっても、私は急加速しなかった。通話をつないだまま、約2キロ先の警察署へ向かった。
途中、軽トラックは黄色い中央線を越えて横へ並び、運転手が何か叫んだ。さらに前へ割り込むと、急に速度を落とした。
だが、前後のドライブレコーダーはすべて記録していた。
警察署が近づくと、軽トラックは突然脇道へ曲がって逃げた。
私は安全な場所へ車を止め、警察官へ映像を提出した。記録には接近、パッシング、幅寄せ、割り込みが時刻とともにはっきり残っていた。ナンバーも確認できた。
数日後、警察から連絡があった。
運転していたのは車の所有者本人ではなく、仕事を手伝っていた知人だった。車体の文字も、その男性が伊勢神宮の関係者であることを示すものではなかった。
事情を聞かれた男性は、最初「前の車が遅かっただけ」と主張したという。しかし映像を見せられると、危険な運転だったことを認めた。
警察から厳重に指導され、映像に記録された行為について必要な手続きが進められた。車の所有者からも連絡があり、「勝手に使わせた責任がある」と謝罪を受けた。
後日、運転していた男性は所有者と一緒に謝罪へ来た。
「急いでいて、前の車にどいてほしかった。怖がらせるつもりはなかった」
私は静かに答えた。
「怖がらせるつもりがなくても、私は事故や暴力まで考えました。急いでいることは、他人の命を危険にさらす理由にはなりません」
男性は頭を下げ、それ以上何も言わなかった。
あの日、車から降りて直接抗議していたら、もっと危険な事態になっていたかもしれない。
相手の所属を推測して名前を広めるより、距離を取り、警察へ連絡し、映像を残す。
恐怖の中でもその3つを守ったことで、私は無事に帰宅でき、危険運転の責任も曖昧にせずに済んだ。