リビングのラグを掃除していた時、ソファの下から1枚の領収書が出てきた。
金額は「22,000円」。
但し書きには「御飲食代として」とある。日付は、夫が「急な残業で夕飯はいらない」と連絡してきた先週の土曜日だった。
その夜、私は夫の好物の煮込みハンバーグを作って待っていた。しかし夫が帰宅したのは深夜0時過ぎ。疲れた顔で「コンビニのおにぎりしか食べてない」と話していた。
では、この22,000円は何なのか。
帰宅した夫へ領収書を見せると、表情が一瞬固まった。
「会社の接待だよ。あとで精算する」
だが領収書には会社名も宛名もない。夫は「細かいことを気にするな」と逆に怒り出し、領収書を取り上げようとした。
その態度が不自然だった。
私は言い争わず、写真を撮ってから領収書を封筒へ入れた。そして家計簿を確認すると、同じ日に家族用のクレジットカードから22,000円が引き落とされていた。
会社の接待なら、なぜ家族カードを使ったのか。
翌日、夫は「経理に出せば戻る」と説明した。そこで私は、「精算書を見せてくれたら納得する」と伝えた。
3日待っても、精算書は出てこなかった。
その間、私は家族カードの利用明細を過去3か月分確認した。すると同じ店で、ほかにも12,800円と18,600円の支払いが見つかった。どちらの日も、夫は残業だと言っていた。
問い詰めると、夫はとうとう白状した。
相手は浮気相手ではなく、会社の後輩2人だった。仕事の相談に乗るという名目で食事へ連れて行き、見栄を張って毎回全額を支払っていたという。
「後輩の前で格好をつけたかった。家のカードなら、しばらく気づかれないと思った」
私は静かに通帳、カード明細、3枚の領収書をテーブルへ並べた。
合計は53,400円。
その直前、夫は私が買った1,980円のフライパンを「無駄遣いだ」と責めていた。
「私の1,980円は無駄で、あなたの53,400円は必要経費なの?」
そう尋ねると、夫は何も答えられなかった。
私は離婚を持ち出す代わりに、3つの条件を示した。使った53,400円を小遣いから全額返すこと。家族カードを返却すること。そして、残業と偽って夕食を無駄にした回数分、休日の夕食を夫が作ることだった。
夫は条件を受け入れ、翌日、後輩たちにも「今後は割り勘にする」と伝えた。
それから3か月、夫の小遣いは必要最低限になり、毎週土曜日には台所へ立っている。
あの領収書をリビングへ落としたことを、夫は今も悔やんでいる。
けれど私は思う。
落として困るような領収書なら、最初から作らなければよかったのだ。