バックミラーを見ると、黒いバットがまた車の窓から突き出ていた。
これで三度目だった。
銀色の軽自動車は、私のバイクに異常なほど接近している。
私が減速すると、激しくクラクションを鳴らす。
路肩へ寄ろうとすると、急加速して進路を塞ぐ。
追跡が始まってから、すでに20分以上が経過していた。
きっかけは、山道のカーブ手前で私が安全のために速度を落としたことだった。
後ろの車は何度もライトを点滅させ、窓を開けて怒鳴り始めた。
「遅えんだよ!」
私は反応せず、そのまま走り続けた。
すると運転手は、助手席の足元からバットを取り出した。
窓の外へ突き出し、私を殴るような動きを見せた。
冗談ではない。
この男は、本気で私を止めようとしている。
山道は次第に狭くなり、周囲の民家も少なくなった。
スマートフォンの電波も不安定だった。
私は片手で操作する危険を避け、ヘルメットに付けていた緊急ボタンを押した。
登録していた端末から警察へ位置情報が送られる。
イヤホン越しに、警察官の声が聞こえた。
「決して停車せず、前方の広い場所まで走ってください」
私は平静を装い、指示された方向へ進んだ。
しかし次の直線で、銀色の車が反対車線にはみ出して私を追い越した。
そのまま急ブレーキをかけ、道路を塞ぐように斜めに停車した。
逃げ道はなかった。
運転席のドアが開いた。
男はシートベルトすら外す必要がなかったらしく、そのままバットを持って降りてきた。
「さっきから逃げやがって!」
男はバットで地面を叩きながら近づいてきた。
「降りてこいよ!」
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