「そこ、人が来るから座らないで」
夜8時を過ぎた、新横浜発のこだま自由席。
連休最終日で、車内はほぼ満席だった。
ようやく見つけたのは、3列席の真ん中。
ところが窓側と通路側に座る、60代くらいの女性2人が私を止めた。
真ん中の席には誰もいない。
置かれていたのは、缶ビール2本、弁当2つ、手提げバッグだけだった。
「お連れの方は、どちらに?」
私が尋ねると、窓側の女性が面倒そうに答えた。
「今、席を外してるのよ」
私は通路脇に立ったまま、しばらく様子を見ることにした。
しかし、10分待っても誰も戻ってこない。
2人は空席のテーブルまで下ろし、酒と料理を広げていた。
まるで3人席を貸し切ったような状態だ。
その間にも、何人もの乗客が空席に気づいた。
けれど、荷物で塞がれた席と2人の威圧的な視線を見て、何も言わず別の車両へ移っていった。
すると女性たちは、大声で笑い始めた。
「最近の若い子って、空気が読めないのよね」
「本当に常識がないわ」
自由席を荷物で占領している本人たちが、周囲の常識を語っている。
私はあきれて言葉も出なかった。
そこへ、小さな子どもを連れた母親が入ってきた。
子どもは眠そうな目をこすりながら、
「ママ、もう疲れた」
と何度も繰り返していた。
母親は真ん中の空席を見つけた。
だが、そこに広げられた弁当とバッグを見て、小さく頭を下げた。
そして子どもの手を引き、次の車両へ向かおうとした。
その瞬間、私は我慢できなくなった。
女性2人の前に立ち、笑顔で言った。
「そこ、座りますね」
2人の表情が固まった。
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