「私に顔を見せろと言うなら、あなたをクビにしてやる!」
朝8時過ぎ。
通勤客で混雑する改札前で、その女性は私を指さして怒鳴った。
私は、その日の駅務責任者だった。
彼女が改札機にかざしたのは、本人確認が必要な記名式の定期券。
だが、端末に表示された登録情報は、目の前の人物と明らかに一致していなかった。
年齢も違う。
身長も大きく違う。
私は人前で顔を見せるよう要求していない。
「女性職員が対応しますので、こちらの個室で本人確認だけお願いします」
そう丁寧に説明した。
ところが彼女は、突然スマートフォンを私に向けた。
「今、駅員から差別を受けています!」
ライブ配信が始まった。
数分もしないうちに視聴者は増え、画面には攻撃的なコメントが流れ始めた。
『この駅員をクビにしろ』
『服装だけで疑うなんて最低』
『名前と顔を公開しろ』
周囲の乗客も足を止め、改札前は混乱した。
列車まで遅れ始めた。
上司は私を端へ呼び、声を潜めた。
「今回は通してしまおう」
「騒ぎが大きくなれば、会社が困る」
私は首を振った。
問題は、彼女の服装ではない。
本人確認ができないことだった。
しかも履歴を調べると、その定期券は3日間で数十キロ離れた三つの駅に現れていた。
どう考えても不自然だった。
「警察が来るまで、お待ちください」
私がそう告げると、女性の態度が変わった。
持っていた大きなバッグを私の前へ押し出し、その隙に改札を突破しようとした。
私はバッグに触れず、同僚へ改札を閉めるよう指示した。
「逃げるつもりですか?」
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