ATMで10万円を下ろし、出てきた1万円札を数えた私は思わず笑った。
10枚すべてに、黄色いキャラクターの小さな印刷が付いていたのだ。
最初はATMのキャンペーンかと思った。しかし、こんな形で紙幣に絵を印刷するはずがない。しかも印刷位置はほぼ同じで、インクの濃さだけが少しずつ違っていた。
その日は賃貸契約の更新料を現金で支払う予定だった。
ところが不動産会社の窓口で紙幣を差し出すと、担当者が困った顔で首を振った。
「申し訳ありませんが、この状態では受け取れません」
私は事情を説明したが、担当者は偽札かどうか判断できないため、金融機関で確認してほしいという。
仕方なくATMを設置している銀行へ向かった。
窓口で紙幣を見せると、行員は驚きながらも、「本当に当行のATMから出たのですか」と尋ねた。
まるで私が自分で印刷したかのような言い方だった。
私は腹が立ったが、声を荒らげなかった。ATMの利用明細を財布から取り出し、スマートフォンのアプリに残る出金履歴も提示した。
出金時刻は10時12分。金額は100,000円。ATMの設置場所と取引番号も一致していた。
さらに、紙幣を取り出してすぐ撮影した写真には、10枚すべての印刷が写っていた。
支店長が呼ばれ、ATM内の現金装填記録と取引履歴を調べることになった。その間、問題の紙幣は1枚ずつ番号を記録され、確認のため預けられた。
約1時間後、支店長が戻ってきた。
紙幣はすべて本物と確認された。ただし、印刷が加えられているため、そのまま流通させず、所定の手続きで回収するという。
さらに調査すると、前日に入金された大量の1万円札の中に、同じ印刷の紙幣がまとまって含まれていた可能性が分かった。それが確認をすり抜け、ATMへ補充されたらしい。
銀行は私へ正式に謝罪し、印刷のない1万円札10枚と交換した。不動産会社にも事情を説明してくれたため、支払い期限を過ぎることなく手続きを終えられた。
数日後、銀行から再び連絡があった。
同じATMを利用した別の客からも申告があり、該当時間帯の取引を調べ、必要な案内を行ったという。誰が印刷したかについては断定できず、関係機関へ情報を共有して確認を続けるとのことだった。
最初は「かわいい」と笑いかけた。
だが、10万円すべてを店で断られた瞬間、かわいいだけでは済まないと分かった。
見慣れない印刷のある紙幣がATMから出ても、慌てて使ったり、面白半分で拡散したりしないことが大切だ。
利用明細、出金時刻、ATMの場所を残し、そのまま金融機関へ持ち込む。
今回、私を守ってくれたのはキャラクターではなく、捨てずに取っておいた1枚の利用明細だった。