歌舞伎町のコンビニで1万円札を出した瞬間、店員の手が止まった。
「お客様、これ……偽札じゃないですか?」
紙幣の余白に、黄色い犬のようなキャラクターが印刷されていたのだ。
私は驚いた。つい10分前、近くの飲食店で会計をした際、お釣りとして受け取ったばかりだったからだ。
「偽札ではありません。さっき店でもらったものです」
そう説明しても、店員は受け取ろうとしない。
後ろにはレジ待ちの列ができ、周囲から疑うような視線を向けられた。
店長まで出てきて、「警察を呼びます」と厳しい口調で告げた。
私は逃げも怒りもせず、先ほどの飲食店のレシートをテーブルへ置いた。
「私も出どころを確認したいので、お願いします」
到着した警察官は、紙幣を専用の方法で確認した。透かしなど偽造を疑う特徴は見当たらず、本物の1万円札に何らかの印刷が加えられた可能性が高いという。
ただし、その場では使わず、金融機関で確認してもらうよう勧められた。
警察官が店員へ事情を説明すると、店長は態度を改めた。
「偽札と決めつけるような言い方をして、申し訳ありませんでした」
しかし問題は終わらなかった。
翌朝、知人から同じような紙幣を見つけたという連絡が入った。さらに周辺の複数店舗でも、似た印刷のある1万円札が持ち込まれていたことが分かった。
警察は「各地で出回っている」と断定せず、紙幣の番号や受け取った場所、時刻を記録し、個別に情報を集め始めた。
私が受け取った飲食店にも確認が入った。
店の責任者は最初、「忙しくて、どの客から受け取ったのか分からない」と話した。
だが、防犯カメラとレジの入出金記録を照合すると、前日の深夜、ある若い客が会計時に複数枚の1万円札を使っていたことが判明した。
映像には、その客が友人へ紙幣を見せ、笑っている姿も残っていた。
後日、警察から事情を聞かれた本人は、イベントを盛り上げるための「遊び」だったと説明したという。偽札を作る意図はなく、本物の紙幣へ印刷しただけだと主張した。
しかし、その遊びによって店員は混乱し、何も知らずに受け取った人が偽札の使用を疑われた。
本人は関係した店舗と受取人へ謝罪し、残っていた紙幣をすべて金融機関へ持ち込んだ。私は確認後、正規の紙幣へ交換してもらい、金銭的な被害は免れた。
見慣れない印刷のある紙幣を見つけても、その場で「大量に出回る偽札だ」と決めつけて拡散してはいけない。
使用せず、受け取った場所と時刻を記録し、警察や金融機関へ相談する。
かわいい絵でも、紙幣に付けば笑い話では済まない。今回もっとも怖かったのは、その1枚ではなく、確かめる前に人を犯人扱いする空気だった。