「41万9,240円を、書面到着後1週間以内に支払ってください」
郵便受けに入っていた封筒を開けた瞬間、私は息をのんだ。
大きく印刷された「支払督促状」の文字。差出人には、実在するらしい弁護士事務所と会社の名前が記され、赤い印鑑まで押されている。
請求の名目は「セミナー受講料」だった。
しかし、そんなセミナーを申し込んだ覚えは一度もない。
電話で勧誘された記憶も、契約書に署名した記憶もなかった。
「もしかして、昔何か登録したのかも……」
不安になったが、慌てて振り込むのは危険だと思い直した。書面には「強制執行等の法的措置」と書かれ、恐怖をあおる言葉が並んでいる。それなのに、契約日、受講した講座名、申込方法、請求の詳しい内訳は記載されていなかった。
私は書面にある電話番号へは連絡せず、まず封筒と通知書の表裏を撮影した。
次に、会社と弁護士事務所の公式情報を自分で検索。書面に印刷された番号ではなく、公式に公開されている窓口へ電話した。
「身に覚えのない請求書が届いたのですが、私の名前で受任された案件はありますか?」
受付担当者に整理番号や住所を伝えると、しばらく保留音が流れた。
やがて返ってきたのは、予想外の言葉だった。
「その番号に該当する案件は、こちらでは確認できません」
事務所名が勝手に使われた可能性も否定できないため、書面の画像を送ってほしいと言われた。
続いて請求元とされる会社にも、公開されている正規の連絡先から確認した。ところが、私の氏名や住所に一致する契約記録はなく、41万9,240円という請求にも心当たりがないという。
これで、少なくとも書面の指示どおりに振り込む理由はなくなった。
私は消費者ホットライン「188」に相談し、届いた書面、封筒、確認した日時、担当者との会話内容をすべて保存。さらに警察相談専用電話「#9110」にも情報を伝えた。
相談員からは、「自分から相手に個人情報を追加で教えず、支払いもしないこと」「今後届く郵便物や着信履歴を残すこと」と案内された。
数日後、公式窓口から連絡があり、私に対する正規の請求ではないことが改めて確認された。私は1円も振り込まずに済み、電話番号を着信拒否。家族にも書面の写真を共有した。
実在する名称、住所、印鑑が並んでいても、それだけで本物とは限らない。
あのとき「1週間以内」という言葉に焦って振り込んでいたら、41万9,240円は戻らなかったかもしれない。
怖い通知ほど、書面に記載された連絡先をうのみにせず、公式情報から別に確認する。
それが、今回私を救った唯一の冷静な判断だった。
※身に覚えのない請求は、支払う前に消費者ホットライン「188」や、緊急でない警察相談「#9110」へ相談できます。