「ありがとうございました。ガソリンも入れておきました」
修理を終えたお客様が、無料で貸し出していた代車を返しに来た。
鍵を受け取った私は、「特に問題はありませんでしたか」と確認した。
お客様は笑顔で「大丈夫です」と答え、そのまま帰っていった。
ところが、次の予約に備えて車内を確認した瞬間、私は言葉を失った。
後部座席は、白い犬の毛だらけ。
座面だけではない。背もたれ、シートベルトの隙間、足元のカーペットにまで、長い毛がびっしり絡みついていた。
さらにシートの端には、茶色い汚れが付着している。
近づくと、すぐに分かった。
犬のウンチだった。
私は犬を飼っている。
だから、犬を車に乗せること自体を責めるつもりはない。毛が抜けることも、慣れない車内で粗相をしてしまうことも理解できる。
しかし、これは自分の車ではない。
修理期間中、お客様が困らないように無料で貸し出している店の代車だ。汚してしまったなら、せめて拭く。掃除できなければ、返却時に一言伝える。それが最低限のマナーではないだろうか。
私は怒りに任せて電話をかけず、まず車内全体を撮影した。
貸出前に撮っておいた写真と並べると、汚れの違いは一目瞭然だった。走行距離と返却時刻も記録し、専門業者に清掃費の見積もりを依頼した。
翌日、お客様へ連絡した。
「後部座席に大量の犬の毛と排泄物が残っていました。何かご存じですか」
すると返ってきたのは、謝罪ではなかった。
「犬を乗せるなとは言われていませんよね?」
その一言で、私の中に残っていた情けは消えた。
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