夫が亡くなってから、まだそれほど日がたっていなかった。
朝起きても、隣には誰もいない。
食事を作っても、箸を二膳並べそうになる。
玄関で鍵の音がすると、夫が帰ってきたような気がする。
そんな毎日だった。
葬儀。
役所の手続き。
銀行や保険会社への連絡。
やらなければならないことは山ほどあった。
悲しむ時間さえ、十分には与えてもらえなかった。
その日も、何気なく郵便受けを開けた。
請求書や案内状に混じって、見覚えのない封筒が一通入っていた。
差出人の名前はない。
不審に思いながら開くと、中から数枚の紙が出てきた。
最初の一文を読んだ瞬間、息が止まった。
「突然のお手紙、失礼いたします」
そこには、亡くなった夫のことが書かれていた。
夫が生前、ある場所に荷物を預けていた。
その荷物の中には、夫が注文したというDVDがある。
DVDには女性が映っている。
家族に知られれば、夫の名誉が傷つく。
そうならないために、こちらで処分する。
ただし、保管料や解約金として、指定口座へ金を振り込んでほしい。
金額は、
168万円。
私は紙を持ったまま、動けなくなった。
夫が?
女性のDVD?
私に隠していた?
胸の奥に、嫌なものが広がった。
亡くなった人には、もう聞けない。
「これは何なの?」
そう問い詰めることもできない。
否定してもらうこともできない。
手紙を書いた人間は、それを分かっている。
私は夫の遺影を見た。
穏やかに笑っている。
その顔を見ながら、一瞬でも夫を疑った自分が悔しかった。
でも、手紙には具体的な日付や数字が並んでいた。
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