私は六十代になった今でも、家族との時間を何より大切にしてきた。
夫を亡くしてからは、息子の大介夫婦と孫の翔太の成長を見守ることが、私の生きがいだった。忙しい毎日を過ごす三人のために、食事を作ったり、家のことを手伝ったり、できることは何でもしてきたつもりだった。
そんなある日、大介が温泉旅行に誘ってくれた。
「母さんも一緒に行こうよ。
たまには家族でゆっくり過ごそう」
その言葉が嬉しくて、私は何日も前から旅行の日を楽しみにしていた。
久しぶりの家族旅行。温泉に入り、美しい景色を眺め、孫の翔太と楽しい思い出を作れると思っていた。
しかし、現実は私の想像とはまったく違うものだった。
観光地を歩いている途中、私は足の痛みを感じるようになった。年齢のせいもあり、若い頃のように長時間歩き続けることは難しい。
私は申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさいね。もう少しゆっくり歩いてもらえないかしら。少し足が痛くて……」
すると、隣を歩いていた嫁の麻衣が、ため息交じりに言った。
「どうしてですか?せっかく旅行に来ているのに、いちいち待たされると困るんですよね」
その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられるようだった。
迷惑をかけたいわけではない。ただ、少しだけ家族に合わせてほしかっただけだった。
そして旅行最後の日、私たちは展望台のある観光地へ向かった。
高台から見える景色はとても綺麗だった。私はその景色を家族と一緒に眺められることを嬉しく思っていた。
その時、麻衣が言った。
「ちょっとトイレに行ってくるね」
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