「速度、29キロオーバーです」
警察官にそう告げられた瞬間、背中から汗が噴き出した。
走っていたのは、普段から何度も通っている自動車専用道路。流れに乗っているつもりだったが、制限速度80キロの区間を109キロで走行していたという。
路肩に誘導され、免許証を渡すと、警察官は淡々と書類を書き始めた。
結果は違反点数3点、反則金18,000円。
「今日から交通ルールも変わりますから、いつも以上に気をつけてください」
そう注意され、青い交通反則告知書を受け取った。
正直、18,000円は痛い。
フリーランスなので、会社が負担してくれるわけでもない。自分の不注意で、半日分以上の収入が消えたと思うと笑えなかった。
ところが、告知書を確認していると、別の意味で目を疑った。
職業欄に書かれていたのは「スポーツ選手」。
「すみません。僕、フリーランスって伝えましたよね?」
そう尋ねると、警察官は少し困った顔をした。
「格闘技をやっているとおっしゃったので……」
確かに雑談の中で、仕事の傍ら格闘技を続けているとは話した。
しかし試合に出ることはあっても、格闘技だけで生活しているわけではない。
「それなら、私も休日に釣りをするので漁師になりますか?」
思わず聞くと、隣にいた警察官が吹き出しそうになり、慌てて下を向いた。
張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ。
もちろん、職業欄がどう書かれていようと、速度違反をした事実は変わらない。私は内容を確認し、指示された場所に署名した。
帰り道は、先ほどまでとは別人のように速度計を見ながら走った。
後ろから距離を詰めてくる車もいたが、焦って速度を上げることはしなかった。ただし、必要以上に遅く走って流れを妨げないよう、制限速度と周囲の状況を意識した。
すると数キロ先で、追い越していった車が再び警察に止められているのが見えた。
運転席の男性は窓を開け、必死に何かを説明していた。
少し前の自分を見ているようで、胸が痛んだ。
その日の夜、私はすぐに反則金18,000円を用意し、告知書を机の見える場所に置いた。
悔しいが、事故を起こして誰かを傷つける前に止めてもらったと思えば、安い授業料なのかもしれない。
翌日から、出発時刻を10分早めた。
急ぐ理由を減らせば、アクセルを踏み込む必要もなくなる。運転中に心の余裕が生まれ、以前より疲れなくなった。
違反点数3点と反則金18,000円。
そしてなぜか「スポーツ選手」になった職業欄。
痛くて少し笑える1枚の告知書は、今も私の戒めとして残してある。
もう二度と、速度計より先に気持ちを走らせないために。