「えっ……これ、うちの土地に勝手に杭を打ってない?」
久しぶりに母の実家へ行った日のことだった。
玄関へ向かう途中、塀の横に見慣れない大きな日よけが張られていることに気づいた。
隣は美容室。
暑さ対策なのだろう。
そこまでは理解できる。
ところが近づいて見ると、日よけを固定するためのロープが何本も塀の外側へ伸び、その先が母の実家側の地面に固定されていた。
私は思わず立ち止まった。
「これ、誰が許可したの?」
母に聞くと、
「え?知らないよ。最近あまりこっち側まで見てなかったから」
との返事。
その言葉を聞いた瞬間、モヤモヤが一気に大きくなった。
念のため写真を撮り、昔の境界資料も確認した。
やはり、少なくとも私たちが確認できる範囲では、その場所は母の実家側。
翌日、私は母と一緒に隣の美容室へ行った。
怒鳴るつもりはなかった。
まず事情を聞こうと思った。
店主らしき男性に、
「すみません。こちらの日よけなんですが、固定している杭がうちの敷地側に入っているように見えるんです」
と伝えると、男性は一瞬だけ黙り、
「ああ、それですか」
と軽い口調で答えた。
そして続けた。
「少しくらい大丈夫でしょう?ずっと使うわけじゃないし」
私は耳を疑った。
「事前に母へ確認されましたか?」
「いや、してないですけど……誰も使ってない場所ですよね?」
その一言で、母の表情が変わった。
普段ほとんど怒らない母が静かに言った。
「使っているかどうかと、勝手に使っていいかどうかは別ですよ」
店主は少し不機嫌そうに、
「でも邪魔になってないですよね?」
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