「パパ、動かないで。もう撮ってるから!」
見知らぬ男に首をつかまれた瞬間、後部座席から震える声が聞こえた。
声の主は、私の子どもだった。
すべての始まりは、何でもない車線変更だった。
ウインカーを出し、後方を確認してから隣の車線へ入った。
その直後だった。
後ろを走っていた車が急加速し、私の車に異常なほど接近してきた。
何度もパッシングを繰り返し、クラクションを鳴らし続ける。
信号で速度を落とすと、運転席の年配男性が窓から腕を出し、前方の駐車場を指さした。
「そこに入れ! 止まれ!」
口の動きだけでも、何を言っているのか分かった。
無視して走り続けることも考えた。
しかし、後部座席には子どもがいる。
このまま追い回され、事故に巻き込まれる方が怖かった。
私は人目のある駐車場へ車を入れ、すぐにドアをロックしようとした。
だが、一瞬遅かった。
車を止めてから十秒もたたないうちに、男が駆け寄ってきた。
そして、いきなり運転席のドアを開けた。
「さっき、俺の前に入っただろ!」
男は怒鳴りながら、私の服をつかんだ。
「子どもが乗っています。手を離してください」
私はできるだけ冷静に言った。
しかし、男は鼻で笑った。
「子どもがいるから何だ?」
さらに私の襟元を引っ張り、車外へ引きずり出そうとした。
私はハンドルに手を置いたまま、抵抗することなく耐えた。
本気で振り払えば、力では負けない。
だが、子どもの目の前で殴り合いになることだけは避けたかった。
「パパに触らないで!」
子どもが叫んだ。
すると男は後部座席を見て、信じられない言葉を吐いた。
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