その朝、俺は完全に限界だった。
前日の残業が深夜まで続き、家に帰ってシャワーを浴びた記憶すら曖昧なまま、気づけばいつもの通勤電車に揺られていた。
座席に腰を下ろした瞬間、意識は沈むように落ちた。
次に耳に入ってきたのは、柔らかい女性の声だった。
「もうすぐ駅ですよ?」
はっと目を開けると、目の前に見知らぬ女性が立っていた。
白いブラウスに紺のカーディガン。
派手ではないのに、不思議と目を引く人だった。
俺は慌てて体を起こした。
「ふぁ……す、すいません」
寝ぼけた声が情けなく響き、彼女は少しだけ笑った。
「いつもこの駅で降りてますよね。今日は起きなさそうだったので」
その一言に、俺はさらに固まった。
いつも?
つまり、彼女は前から俺のことを見ていたということか。
礼を言う前に電車は駅へ着き、人の波に押されるように俺は降りた。
振り返ると、彼女は車内から小さく会釈していた。
可愛い人だったな。
ただ、それだけで終わるはずだった。
ドラマでもあるまいし、通勤電車で会った知らない女性と何かが始まるなんて、俺には縁のない話だと思っていた。
だが翌日も、その女性は同じ車両にいた。
俺が眠気と戦っていると、彼女は少し離れた場所からこちらを見て、くすっと笑った。
「今日は起きてますね」
「昨日は本当に助かりました。寝過ごしたら会議に遅れるところでした」
「それは大変でしたね」
短い会話だった。
けれど、朝の満員電車の中で、その数十秒だけが妙に明るく感じた。
それから、俺たちは毎朝のように顔を合わせるようになった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=99WQ81bfbWY,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]