「わかってるんだよ。盗ったものを出して」
店のトイレから出た瞬間、待ち構えていた2人の店員に囲まれた。
私は身長147センチ。黒髪のストレートロングに黒縁眼鏡、アレルギー対策のマスクを着けている。その日は朝のランニング帰りで、ジャージにすっぴんという格好だった。
店で飲み物を1本購入し、レシートをポケットに入れてからトイレを借りただけだった。
「何の話ですか?」
戸惑う私に、もう1人の店員が強い口調で言った。
「とぼけないで。裏に来て。親と警察にも連絡するから」
なぜ29歳の私に「親」が来るのか。
事情が分からないまま事務室へ連れていかれ、鞄やポケットの中身を確認された。しかし出てきたのは、スマートフォンと鍵、財布、先ほどのレシートだけ。
それでも店員は決めつけた態度を崩さなかった。
「名前と住所は?」
私は黙って財布から運転免許証を取り出した。
生年月日を見た瞬間、2人の表情が固まった。
「え……29歳?」
私がお茶を飲むためにマスクを外すと、1人が青ざめた顔でつぶやいた。
「違う。この子じゃない……」
そこへ警察官と店長が入ってきた。
話を聞くと、数か月前までこの店には、万引きを繰り返して出入り禁止になった中学生がいたという。身長や髪形、眼鏡をかけた姿が私と似ていたため、店員たちは顔も行動も確認せず、本人だと決めつけたのだ。
警察官が防犯カメラを確認すると、私が商品をレジで精算し、レシートを受け取ってからトイレへ向かう映像が残っていた。
万引きの証拠など、最初から一つもなかった。
店長は深く頭を下げ、商品券を差し出した。
だが私は受け取らなかった。
「問題は間違えたことだけではありません。証拠も確認せず、私を犯人扱いして事務室へ連れてきたことです」
さらに、警察官の前で経緯を記録し、本部から書面で説明と謝罪をするよう求めた。
数日後、店の運営本部から正式な謝罪文が届いた。関係した店員には再教育が行われ、今後は防犯映像と本人確認を済ませるまで、客を犯人と決めつけない手順に改められたという。
若く見られたことが嬉しいとは、少しも思わなかった。
29歳の大人を中学生と間違えたうえ、証拠もなく万引き犯と決めつけたのだ。
免許証を見て驚く前に、最初から顔と事実を確認してほしかった。
思い込みよりも強い証拠は、レシートと防犯カメラにきちんと残っていたのだから。