朝から目の前がぐらつき、冷や汗が止まらなかった。
それでも私は、会社の繁忙期だからと無理をして出勤した。小さな広告会社で、社員はたった8人。社長はいつも「根性がない奴はいらない」が口癖だった。
昼前、ついに机に手をついた私を見て、同僚の美咲さんが慌てて言った。
「顔、真っ白だよ。病院行って」
私は社長に早退を申し出た。すると社長は舌打ちしながら、
「またかよ。体調管理も仕事のうちだろ」
と言った。
それでも立っていられず、私は病院へ向かった。診断は急性胃炎と過労。医師からは「数日は休んでください」と診断書まで出された。
その日の夕方、社長から電話が来た。
「お前、もう来なくていい。クビ」
一瞬、耳を疑った。
「診断書もあります。明日、提出します」
そう言うと、社長は低い声で笑った。
「労基に言うなよ。面倒なことにしたら、この業界で働けなくしてやる」
私はスマホの録音ボタンが動いているのを見ながら、静かに答えた。
「こちらからは訴えません」
社長は勝ったと思ったのか、
「分かればいいんだよ」
と言って電話を切った。
翌日、私は会社に行かなかった。
ただ、必要な手続きだけは淡々と進めた。離職票の発行を依頼し、未払い残業代の計算のため、タイムカードの写真、給与明細、深夜の業務チャットを整理した。
すると数日後、美咲さんから連絡が来た。
「実は私たちも限界だった。あなたが辞めさせられたことで、みんな決心した」
社長は私だけを脅したつもりだったらしい。
でも、社員全員が毎月60時間以上の残業をしていた。
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