社員食堂の扉を押した瞬間、空気が一段冷えた気がした。トラバス電機――産業用ロボットメーカーの現場で作業員として働く私が、いつものように昼食を取ろうとしただけだった。
「おい。そこで飯を食うな」
背後から低い声。振り返ると、二代目社長が腕を組み、食堂の中央に立っていた。周囲の社員たちが箸を止める。
「作業員がいると飯が不味くなる。
出ていけ」
言葉は短く、しかし刃物のように鋭かった。胸の奥がじわりと熱くなる。怒りではない。諦めに似た感情だ。私は静かに一礼し、声の震えを抑えながら答えた。
「なるほど。そういうお考えなのですね。今までありがとうございました――今日で退職します」
食堂が凍りついた。社長は一瞬、目を見開き、次いで慌てたように声を上げた。
「ち、ちょっと待て! お前まで抜けたら――」
「会社のため、社長のためでもあります。私は、現場の誇りを踏みにじられたまま働けません」
その日、私は退職届を提出し、制服を返した。廊下の窓から見えた工場は、いつもと変わらないはずなのに、どこか頼りなく見えた。
――そして、退職の“即日”が意味するものを、会社はすぐ思い知ることになる。
まず、定期メンテナンスが回らなくなった。トラバスのロボットを安定稼働させていたのは、外部協力の技術者・明石さんの腕だった。だが、社長は少し前に彼を「替えはいくらでもいる」と言わんばかりに手放していた。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=UwTJWgEEnss,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]