深夜二時、夢の中で私は突然「お母さーん!」と叫びながら飛び起きた。胸が潰れるように苦しく、なぜか「もう間に合わない」という言葉だけが頭から離れなかった。ここ一年、私は忙しさを理由に母へ電話もせず、「また今度」と何度も先送りにしてきた。その“また今度”が、永遠に消えた瞬間だったことを、この時すでに身体は知っていた。
携帯を握ったまま、私は動けずにいた。
もし今すぐかければ、まだ間に合うのではないか。そう思いながらも、なぜか指が動かない。人は、本当に怖い現実ほど、直視できなくなる。
夜明け前、電話が鳴った。
近所の方の声で、すべてを悟った。母はその夜、静かに息を引き取っていた。時刻は、私が夢の中で叫んだ、まさにその頃だった。
母の部屋で手を握りながら、私は何度も自分を責めた。もっと会っておけばよかった。忙しいという言い訳は、誰の命も引き止めてくれない。別々に暮らす選択をしたのは私だが、最後の瞬間にだけ、心だけが勝手に母のもとへ走ってしまったのだ。
この出来事以来、私は「また今度」という言葉を口にできなくなった。
それは、失って初めて気づく後悔の重さを、もう誰にも味わってほしくないからである。
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