俺の名前は田端智彦。三十二歳。これからある中小企業の新社長として就任する予定だが、そのことを社内で知る者はまだごく一部に限られていた。幼い頃に両親は離婚し、俺は母方の祖父母のもとで育った。祖父は地元で評判の飲食店を営んでおり、そこで商売の厳しさと、人を動かすのは肩書きではなく信頼だということを学んだ。やがて縁あって、実父が経営する会社に入ることが決まったのだが、まずは一社員として現場を見てほしいという父の意向もあり、入社前に社内行事であるバーベキューへ参加することになった。
当日、会場には社員だけでなく家族も集まり、終始にぎやかな空気が漂っていた。俺はあえて目立たぬように周囲の様子を見ていたのだが、やがて不快な怒声が耳に飛び込んできた。視線を向けると、一人の若い女性社員が中年女性にあごで使われ、慌てたように皿や飲み物を運ばされていた。周囲には同年代の女性たちが何人か集まり、まるでその中年女性を取り巻くように笑っている。どう見ても異様な光景だった。
気になって近づくと、その女性は俺を睨みつけた。
「あなた、何? 口出しするつもり?」
事情を尋ねると、彼女は鼻で笑った。
「私は人事部長の妻よ。こっちも役職者の奥様たち。忙しい主人たちの代わりに、新人や若い子を指導してあげてるの」
理不尽にもほどがあった。しかも、俺がもうすぐ入社する人間だと知ると、彼女――部長夫人のひな子はあからさまに見下した。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=7Ycmp09Kokk,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]