山内武志、四十歳。地元では名の知れた男でありながら、その素性を昔の同級生たちには長いあいだ伏せて生きてきた。表向きは実業家として通しているが、その実、彼は一帯を束ねる組織の組長である。生まれながらにして任侠の家に育ち、望む望まぬにかかわらず、その道を継ぐことになった。修羅場も抗争も数え切れないほどくぐり抜けてきたが、それでもただひとつ、どうにも平静でいられない場所があった。
高校時代の思い出が残る、同級生たちの前である。
そんな彼のもとに、ある日、高校の同窓会の案内が届いた。差出人の名前を見た瞬間、武志は小さく息を吐いた。そこには親友・健二の名があった。昔から何でも見透かしたような顔をする男で、武志の事情もよく知っている数少ない存在である。参加するべきか迷っていると、ほどなく健二から直接電話がかかってきた。
「来いよ、武志。今さら格好つける年でもないだろ」
軽い口調の裏に、妙な強さがあった。武志はしばらく黙っていたが、最後には静かに了承した。断り続けてきた再会の場に、今度こそ顔を出そうと思ったのだ。そこにはもう一つ、口に出せない理由があった。初恋の相手、吉野も来るらしいと聞いていたのである。
高校時代、武志は吉野に惹かれていた。彼女もまた、自分に心を寄せてくれているのではないかと感じたことは一度や二度ではない。だが、武志は何も言えなかった。自分の家がどういう家なのか、自分がどんな未来を背負わされているのかを知っていたからだ。普通の幸せの中に、彼女を巻き込むわけにはいかなかった。その想いは時とともに胸の奥に沈んだはずだったが、完全に消えたわけではなかった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=wBIvFQawroY,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]