財布を落としたことに気づいた瞬間、頭の中が真っ白になった。
現金は2万8000円。
銀行のカード。
運転免許証。
仕事で必要な大切なカードまで入っていた。
私はすぐに駅へ戻った。
しかし、どこを探しても見つからない。
現金だけは、もう諦めるしかない。
そう思いながら近くの交番へ行くと、警察官が茶色い財布を差し出した。
「こちらで間違いありませんか?」
間違いなく私の財布だった。
恐る恐る中を確認する。
2万8000円は一円も減っていない。
カードも免許証も、そのままだった。
代わりに、見覚えのない小さな紙が一枚入っていた。
『財布を拾いました。
中は見ていません。
近くの交番にも届けました。
念のため、このメモだけ入れておきます。
困ったことがあれば、いつでも連絡してください』
最後に書かれていたのは、名前ではなくWakooのIDだけだった。
私はお礼を伝えたくて、そのIDへ連絡した。
ところが電話の向こうから聞こえたのは、少年の泣き声だった。
「お巡りさん、僕は本当に一円も盗っていません!」
財布を届けたのは、高校生の男の子だった。
彼は駅のベンチ付近で私の財布を拾い、三分後には交番へ届けていた。
しかし、その場にいた中年男性が彼を指さし、
「こいつは俺の3万円も盗んだ。常習犯だ」
と騒ぎ始めたという。
男性は少年の顔を勝手に撮影し、SNSへ投稿していた。
『駅で財布を盗んだ高校生』
そんな文章まで添えていた。
学校にも連絡が入り、少年は停学になるかもしれない状況だった。
私はすぐに交番へ戻った。
中年男性は私を見るなり、強い口調で言った。
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