娘が愛犬を連れて散歩に出たのは、夜の九時前だった。
いつも通る道だった。
住宅と小さな店舗が並ぶ、決して危険には見えない場所。
娘は、
「少しだけ歩いてくるね」
と言って家を出た。
リードの先には、まだ若いワイマラナー。
体は大きく見えても、家では甘えん坊だった。
娘が部屋を移動すれば、必ず後ろをついて歩く。
雷が鳴れば、娘の足元へ隠れる。
人を襲うような犬ではなかった。
それから二十分ほどたった頃。
私のスマホが鳴った。
娘からだった。
でも、聞こえてきたのは娘の声ではない。
荒い息。
男たちの笑い声。
そして犬の激しい鳴き声だった。
「やめて!」
娘の叫び声が聞こえた。
次の瞬間、
鈍い音。
もう一度。
さらに何度も。
私は何が起きているのか理解できなかった。
「どこにいるの!」
必死に呼びかけた。
娘は泣きながら、近くの店の名前を口にした。
私は家を飛び出した。
現場へ着くと、娘は路上に座り込んでいた。
服は汚れ、腕には赤い跡が残っていた。
その少し先に、愛犬が横たわっていた。
呼吸が浅い。
立とうとしても、後ろ脚が動かない。
娘は犬の首を抱きしめながら、何度も名前を呼んでいた。
「ごめんね」
「私を守ろうとしただけなのに」
「お願いだから死なないで」
私は震える手で救急と警察へ連絡した。
娘の話では、酔った4人組に突然声をかけられたという。
無視して通り過ぎようとすると、進路を塞がれた。
一人が娘の肩へ手を伸ばした。
その瞬間、犬が娘の前へ出て吠えた。
噛みついてはいない。
ただ、近づくなと警告するように吠えただけだった。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください