混雑した車内で、その女性は悪びれもせず言い放った。
四人掛けのボックス席に座っているのは、中年の男女二人だけ。
残りの二席には、大きなリュックや手提げバッグが山のように置かれていた。
そのすぐ横には、七十代くらいの老夫婦が立っていた。
おじいさんは片手でつり革を握り、もう片方の手でおばあさんを支えている。
列車がカーブに差しかかった瞬間、おじいさんの体が大きく揺れた。
足元がふらつき、危うく床へ倒れそうになる。
私は反射的に腕を伸ばした。
「大丈夫ですか?」
おじいさんは申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。最近、膝が悪くて……」
私は四人席の二人に声をかけた。
「すみません。荷物を下ろして、お二人に席を譲っていただけませんか?」
すると女性は、バッグを抱えるどころか、さらに座席の中央へ押し込んだ。
「このバッグ、高いんです」
「床に置いて汚れたら、あなたが弁償してくれるんですか?」
隣の男性も笑いながら言った。
「年寄りだって、数駅くらい立ってても死なないだろ」
耳を疑った。
おばあさんは傷ついたように目を伏せた。
おじいさんは小さな声で「もういいです」と言い、妻の手を握り直した。
けれど、私は引き下がれなかった。
「お二人が買ったのは、二人分の乗車券ですよね」
「荷物のために、四席分を買ったわけではないでしょう?」
男性の顔色が変わった。
「お前、何様だよ」
「係員でもないのに、正義の味方を気取るな」
女性も私をにらんだ。
「先に座った人が使うのは当然でしょ」
そして、見せつけるように二つのバッグを座席いっぱいに広げた。
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