「すぐに帰るぞ」――産院の廊下に夫・周一の声が落ちた瞬間、私は胸の奥が冷たくなりました。初孫を抱かせてもらったのは、ほんの数秒。まだ腕に残る小さな温もりに浸る間もなく、夫は赤く怒りに染まった顔で出口へ向かい、振り返りもしなかったのです。
外は激しい雨。傘も差さず駐車場へ急ぐ背中を追い、車に乗り込むと、周一は無言でエンジンをかけました。
ワイパーの音だけが車内に響き、私は理由を問う言葉を何度も飲み込みます。信号で止まったとき、夫はようやく低く言いました。
「……お前、気づかなかったのか」
「何に?」と聞き返した私に、周一は歯を食いしばり、病院で見た光景を突きつけました。分娩室の前で、香織さんの両親だけが先に通され、私たちは廊下で待機。三十分以上待たされた挙句、洋介が出てきて放ったのは「もう帰っていいよ」の一言。祝いに来た親への言葉とは思えませんでした。さらに夫は、看護師に確認したと言います。
「“夫婦の希望で、父方は入れない”ってな。
洋介と香織が言ったんだ」
私は唇が震えました。それでも、夫が本当に怒りで視線を硬くしていた理由は、別にありました。
「赤ん坊を抱いた時、右腕を見たか?」
周一の声がかすれます。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=sQvKHKRfPZs,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]