祖父が亡くなり、四十九日を過ぎた頃、家族で生命保険の請求手続きを進めることになった。葬儀や納骨のばたばたが一段落し、ようやく落ち着いて事務的な手続きに取りかかれるようになった時期だった。書類を取りまとめていた保険会社の担当者が、途中でふと手を止め、怪訝な表情を浮かべた。
「受取人様のお名前が、ご家族の続柄とは一致していないようなのですが」
担当者が示した契約書には、家族の誰も聞いたことのない名前が、受取人として記載されていた。契約日は今からちょうど30年前。それ以来、受取人の変更手続きは一度も行われていなかった。保険金額は340万円だった。担当者は「30年間、変更のお申し出がないままの契約は、実はそれほど珍しくありません」と付け加えたが、その説明は家族の誰の疑問にも答えるものではなかった。私たちはしばらくの間、応接室で顔を見合わせたまま、何も言葉が出なかった。
祖母に尋ねても、父に尋ねても、その名前に心当たりがある者はいなかった。祖母は「そんな人、知らないわよ」と困惑した様子で首を振った。父も、祖父からその名前を聞いた記憶は一度もないという。
叔母にも電話で確認してみたが、やはり同じ反応が返ってきた。家族の中で唯一、その名前を知っている可能性があるとすれば、それは亡くなった祖父本人だけだった。
念のため、実家に保管されていた古いアルバムを何冊も引っ張り出し、名前や写真の裏書きを確認してみたが、該当しそうな人物はどこにも見つからなかった。年賀状の束や、古い電話帳のようなメモ帳にも、その名前は載っていなかった。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください