財布は間違いなく俺のものだった。
中には現金6万8000円と、運転免許証、クレジットカードが入っている。
確認したが、何も抜き取られていなかった。
「どこに落ちていました?」
俺が尋ねると、おじさんはトイレの洗面台を指さした。
「お前、席に着く前にここへ来ただろ。そのとき床に落としたんだ」
おじさんは偶然、俺のすぐ後にトイレへ入ったらしい。
床の財布を拾おうとしたとき、入口にいた若い男も財布を見ていたという。
その男はおじさんより先に手を伸ばそうとした。
「俺が拾ったら、そいつは何も言わずに出ていった。だが、お前と同じ方向へ戻ったから気になった」
若い男は俺の数席先に座っていた。
もし席で「財布を落としたぞ」と声をかければ、現金が入っていることまで周囲へ知られる。
そこでおじさんは、誰にも聞かれない場所で返そうと考えたらしい。
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