高校二年生の娘の進路調査票を確認していて、保護者欄に見覚えのないサインがあることに気づいた。私の字でも、再婚した今の夫の字でもない。それなのに、なぜかどこかで見た記憶のある筆跡だった。
念のため担任の先生に確認すると、「お父様がお書きになったと伺っています」と言われ、私は思わず言葉を失った。
娘の実の父親と離婚したのは、娘がまだ五歳の頃だった。
それ以来十年以上、元夫とは一度も連絡を取っていない。少なくとも、私はそう思っていた。
その日の夜、娘に事情を尋ねた。娘は最初、視線をそらしたまま黙り込んでいた。
「いつから会ってるの」
しばらくの沈黙のあと、娘は小さな声で答えた。
「二年前から、月に一回だけ」
聞けば、中学二年生のとき、SNSを通じて自分から元夫に連絡を取ったのだという。父親のことを覚えていないわけではなく、ただずっと「会いたい」と言い出せずにいた。私が再婚し、新しい家庭を築いていく中で、その気持ちを口にすることが、なんとなく裏切りのように思えていたらしい。
娘のスマートフォンには、私の知らない連絡先が残っていた。
やり取りを見せてもらうと、進路の相談や、数年前に亡くなった元夫側の祖父母の思い出話など、他愛のない内容が多かった。今回の進路調査票も、たまたま会った際に、元夫が「一言だけ書かせてほしい」と頼んできたのだという。
「黙っててごめんなさい。でも、隠したかったわけじゃないの」
娘はそう言って、うつむいた。今の夫との関係を壊したくない、私を悲しませたくない。
娘なりに、いくつもの気持ちを抱えながら、一人で判断してきたのだと分かった。
正直、複雑な気持ちがなかったと言えば嘘になる。それでも、娘が自分の意思で、大切な関係を守ろうとしてきたことは、責められることではないと思えた。
「これからは、隠さなくていいよ。ちゃんと教えて」
そう伝えると、娘は少しほっとしたような顔で頷いた。今の夫にもいずれ話すつもりだと、娘は静かに言った。
父と娘の時間を、これからどう受け止めていくのか、私自身、まだ答えは出ていない。