「これくらいならセーフでしょ?」
仕事から帰った妻は、平然とそう言った。
私は玄関を出て、駐車場を見た瞬間に固まった。
車の左後部と白い壁の隙間が、ほとんどない。指1本どころか、紙さえ入るか怪しい距離だった。
しかも、壁には新しい黒い擦れ跡が付いている。
今年に入って、これで3回目だった。
1回目は2月。
左のドアに細長い傷が付き、修理代は4万8000円。
2回目は5月。
後ろのバンパーをこすり、塗装代に6万2000円かかった。
そのたび妻は、「車は走ればいい」「小さな傷くらい気にしすぎ」と笑っていた。
けれど今回は、車体が壁に押しつけられるほど斜めに止まっていた。
「本当に当たってないの?」
私が聞くと、妻は自信満々に答えた。
「音はしなかったから大丈夫」
私は言い争わず、スマートフォンで車体と壁を撮影した。
翌朝、明るい場所で確認すると、左後部には白い塗料が付着していた。壁の傷と高さも完全に一致している。
さらに駐車場の防犯カメラを確認すると、妻が後退した瞬間、車体が壁に触れて小さく揺れる様子が映っていた。
映像を見せても、妻はまだ言った。
「でも、へこんではないよね?」
そこで私は、これまでの修理明細を食卓に並べた。
4万8000円、6万2000円、そして今回の見積もりは5万5000円。
合計16万5000円。
「小さな傷でも、3回でこれだけかかってる。問題は傷じゃなくて、確認せずに“セーフ”で済ませることだよ」
妻は明細を見たまま、初めて黙り込んだ。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください