20年間、俺は包丁を握らなかった。
かつて小さなラーメン店をやっていたが、最後は仕入れ先まで失い、店を閉めた。
今は55歳。
食品工場で決められた具材を冷凍食品に載せる毎日だった。
そんな俺のところへ、ある日2人の女性が訪ねてきた。
30代ほどだろうか。
立派なスーツを着た2人は、どこか顔が似ていた。
「山田さん、お久しぶりです」
俺には覚えがない。
すると1人が笑った。
「50円じゃ足りませんか? スープだけでも飲ませてもらえませんか?」
その瞬間、20年前の光景が戻ってきた。
雨の夕方。
店の扉を開けたのは、穴の開いた靴を履いた双子の少女だった。
手に持っていたのは50円玉が1枚。
「スープだけでいいんです」
あの頃、俺の店も潰れる寸前だった。
それでも、空腹を我慢している2人を追い返すことはできなかった。
俺はラーメンを2杯作った。
チャーシューを増やし、卵も乗せた。
「でも、お金が……」
「50円で十分だよ」
2人は夢中で麺をすすった。
帰り際、姉のゆいが言った。
「いつか絶対に恩返しします」
妹のメイも何度も頷いた。
だが、その約束を待つ前に俺の店はなくなった。
2人はその後、親戚に引き取られて東京へ移ったという。
そして20年間、あの日の店と俺を忘れなかった。
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