九条景信は、人生で最も大切な瞬間を間違えた。
彼が向かった先は病院ではなく、空港だった。
長年心の奥に残っていた初恋の女性、白石ゆきのが海外から帰国する日。景信にとって、それは「どうしても外せない約束」だった。
しかし、その日の朝、妻の水上はるかは手術台へ向かっていた。
そして、その日を境に、彼女の電話番号は二度と彼につながらなくなった。
怒りの言葉も、責める声も、涙の訴えもなかった。
ただ完全な沈黙だけが残った。
その沈黙こそが、景信にとって最も残酷な答えだった。
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「九条けいしんさん。こちらに署名をお願いします」
静かな声だった。
水上はるかは、離婚届と財産分与に関する書類をテーブルの上へ置いた。
そこには、五年間の結婚生活を終わらせる決意が込められていた。
向かいに座る景信は、スマートフォンから視線を上げなかった。
画面には羽田空港の到着案内が表示されている。
「今はやめてくれ。ゆきのが十九時四十分に到着する。道路が混む前に出たいんだ」
その言葉を聞いた瞬間、はるかの胸の奥に残っていた最後の期待が消えた。
「今日は……私の退院日よ」
「手術は無事に終わっただろう。医師からも連絡を受けた」
景信の声には心配よりも面倒そうな響きがあった。
はるかは左脇腹へ手を当てた。
まだ傷は痛んでいた。
麻酔から目覚めた時、彼女の隣の椅子には誰もいなかった。
本来なら、夫がいるはずの場所だった。
手術当日、病院は緊急連絡先である景信へ説明をする予定だった。
全身麻酔後の付き添いも必要だと、何度も伝えていた。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=BVenTjz0Mpg&t=1s,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]