先週、私は夫・千原と一緒に義実家へ夕食をご馳走になりに行った。結婚してからも義実家訪問は気が重い。それでも「父の日が近いし、顔だけでも出そう」と千原が言うので、私は自分に言い聞かせるように玄関のチャイムを押した。
居間に通されると、食卓には出前寿司の桶が並び、ふわりと酢飯の匂いが広がった。義父母、義妹(コトメ)夫婦、そして夫。
皆が自然に寿司を取り分け始める。湯呑みが配られ、醤油皿が置かれ、まるで“いつもの家族の晩ごはん”のように会話が流れた。
私は、最後に席へ着いた。
その瞬間、視界の隅に違和感が刺さった。私の前だけ、寿司の皿がない。代わりに置かれていたのは、白いご飯の茶碗と、小袋のふりかけ。海苔と鰹節の、いかにも安価な、あの彩りだった。
「……あの、私の分は……?」
言葉が途中でほどけた。義母は箸を止めず、顔も上げないまま言った。
「数を間違えちゃったみたい。ごめんねえ。ほら、ふりかけあるから」
食卓の空気が一瞬だけ止まり、すぐに流れ出した。義父は知らないふりで寿司を頬張り、コトメは口元を押さえて笑うように目を細めた。
千原だけが私を見たが、その視線は“困ったな”ではなく、“面倒なことを言うな”に近かった。
私は深呼吸をして、夫に小さく訴えた。「私だけ、ふりかけご飯なんて……」
すると千原は、ため息交じりに言い放った。
「母さんが注文数を間違えただけだろ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=N9p-jPI_qKw,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]