卒業式の日。
体育館には、春の訪れを感じさせる柔らかな光が差し込んでいた。
大勢の保護者や教師、そして卒業生たちが見守る中、一人の少女が壇上へ向かって歩いていく。
彼女の名前は、みお。
高校生活最後の日、卒業生代表として答辞を読む大役を任された優秀な生徒だった。
誰もが、事前に用意された原稿を読み上げると思っていた。
しかし、マイクの前に立ったみおは、手にしていた原稿を静かに折りたたんだ。
会場がわずかにざわめく。
教師たちも、保護者たちも驚いた。
その瞬間、体育館の一番後ろの席に座っていた一人の男性が息を止めた。
油の染みついた大きな手。
何度洗っても消えない黒い跡。
13年間、車のエンジンと向き合い続けた証だった。
彼の名前は、たけし。
地方の国道沿いにある小さな自動車整備工場で働く、45歳の修理工だった。
大手ディーラーや全国チェーンの整備工場が増える中、たけしの工場の経営は年々厳しくなっていた。
それでも、昔から通う地元の客たちは言った。
「車のことなら、むくのきさんに任せたい」
その信頼だけを支えに、たけしは毎日油まみれになりながら仕事を続けていた。
そんな彼には、妻のさゆりと娘のみおがいた。
ただし、みおとたけしの間に血のつながりはなかった。
さゆりには前の夫との間に生まれた一人娘がいた。
それが、みおだった。
みおがまだ1歳の頃、父親は交通事故で亡くなった。
さゆりは女手一つで娘を育てていたが、ある日、知人の紹介でたけしと出会った。
当時32歳だったたけしは、不器用ながらも必死だった。
「この子に認めてもらいたい」
ただその一心で、何軒ものおもちゃ屋を回り、小さな女の子が喜びそうな熊のぬいぐるみを選んだ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=nOupZEY_9oE,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]