父が施設に入所してから、通うのはほとんど私だけだった。
兄に一度、手伝ってほしいと伝えたことがある。
返ってきたのは、この一言だった。
「俺が全部やってるんだから、口を出すな」
何を全部やっているのか、私には見当もつかなかった。
納得できないまま、施設の面会簿を見せてもらうことにした。
受付の職員がめくったページには、私の知らない日時で、兄の名前が何度も記録されていた。
しかも、すべて夜の9時を過ぎた時間帯だった。
私はその夜、兄に電話をかけた。
「面会簿、見せてもらった。夜遅くに来てたんだね」
しばらく沈黙があってから、兄はぽつりと言った。
「昼間だと、父さん、俺の顔を見ても分からなくて、混乱させるだけだったから」
仕事終わりに寄って、父が眠っている顔を見るだけの日も多かったという。
「意味ないって思うかもしれないけど、それでも行きたかった」
私は何も言えなかった。
その週末、私たちは初めて一緒に、昼間の面会に付き添った。