私は、地方のローカル線で駅員をしている。
毎週日曜の始発列車に、決まって同じ老人が乗っているのに気づいたのは、もう何年も前のことだ。
白髪で、いつも同じ紺色のコートを着ていた。
誰とも話さず、決まった席に座り、終点まで一度も席を立たなかった。
ある日曜の朝、気になって声をかけてみた。
「毎週、どちらまで行かれるんですか」
老人は少し驚いた顔をしたあと、穏やかに微笑んだ。
「ちょっと、遠くまで」
それ以上は、何も語らなかった。
その後も、日曜の朝になると、同じ姿を見かけた。
季節が変わり、また変わった頃、ふとその姿が見当たらないことに気づいた。
翌週も、その翌週も、老人は現れなかった。
窓口の同僚に聞いても、詳しいことは誰も知らなかった。
終点の駅の方にも、少しだけ様子を聞いてみたことがある。
「ああ、あの方なら……ずっと、同じ場所に通われていたみたいですよ」
それ以上、詳しいことは教えてもらえなかった。
今も日曜の始発列車が来るたびに、私はあの紺色のコートを、少しだけ探してしまう