「駅前が満車だったから、少しくらいいいでしょ」
月額料金を払って借りている店の駐車場に、また見知らぬ黒いミニバンが停まっていた。
これで今月3回目だ。
その日は予約客が来店する予定だったため、私は仕方なく近くのコインパーキングを案内した。ところが、お客様は空きを探している間に時間がなくなり、予約をキャンセル。
さすがに我慢の限界だった。
私は車体とナンバー、駐車区画、時計が一緒に写るように写真を撮影。さらに「契約者以外駐車禁止」と書かれた看板まで動画に収め、管理会社へ連絡した。
「今まで何度も無断駐車されています。今日は営業にも影響が出ました」
管理会社からは、警察にも相談記録を残しておくよう言われた。
約40分後、買い物袋をいくつも提げた男女が戻ってきた。
男は私の顔を見るなり、悪びれもせずに言った。
「駅前の駐車場がいっぱいだったんですよ。もう帰るからいいでしょ」
私は静かに答えた。
「ここは店が毎月お金を払って借りている場所です。あなたが停めたせいで、お客様が1組帰りました」
すると助手席の女性が鼻で笑った。
「たった40分じゃん。
細かすぎない?」
その瞬間、私はスマートフォンの画面を見せた。
そこには駐車開始からの写真、以前の無断駐車記録、キャンセルになった予約、近隣駐車場の領収書。そして管理会社との通話履歴が残っていた。
「管理会社と警察には連絡済みです。今、こちらへ向かっています」
二人の表情が一気に変わった。
男は急に声を落とし、「大げさにしなくても」と言い始めたが、もう遅い。
到着した警察官は、ここが月極契約の私有地であることを確認し、運転者の身元と事情を記録。管理会社の担当者も、その場で「次回確認した場合は正式に対応する」と書面で警告した。
さらに、防犯カメラを調べると驚くべき事実が判明した。
過去2回の無断駐車も、同じ黒いミニバンだったのだ。
「空いていたから偶然停めただけ」という言い訳は、完全に崩れた。
後日、相手は管理会社を通じて謝罪し、お客様に負担させたコインパーキング代と、当日の実費を支払った。
店の駐車場には新しく防犯カメラとカラーコーンが設置され、無断駐車が確認された場合は直ちに管理会社へ通報する仕組みも整った。
あれから、黒いミニバンが現れることは一度もない。
「少しくらいならバレない」と思ったのだろう。
けれど、その“少しくらい”のために困る人がいる。
毎月きちんと料金を払っている側が、黙って我慢する必要などなかったのだ。