「お盆は3日だけ実家に帰るね。」私がそう言うと、夫は新聞から目も離さず「せいせいする」と言い放った。大学生の息子も「そのまま帰ってこなくていいよ、俺たちだけで十分だから」と続けた。私は怒鳴らず、ただ静かに息を吐いた。鞄の中には記入済みの離婚届と、ガス水道電気の解約通知が入っていた。
結婚28年、この家は私の両親が資金を出し、私の名義で建てたものだった。
夫の給料だけでは生活が苦しく、私は息子が小学校に上がるとパートに出た。夫は「俺が外で働いてやってるからお前は飯が食えるんだろう」と言うようになり、息子も父に感化され、私を軽んじるようになった。半年前、母の葬儀の日、夫も息子も顔を出さず、帰宅すると2人は高級寿司とワインで祝杯をあげていた。その夜、私の中で何かが完全に冷え切った。
それから私は静かに動き始めた。息子の持ち物に不釣り合いな高級品が増えていること、夫のスーツに残る香水の匂い。ズボンのポケットから見つけた高級焼肉店のレシートには「達也君、お誕生日おめでとう、裕子より」と書かれていた。夫のシステム手帳には「Yと食事」「Yと達、3人で買い物」の書き込み。
ある夜、眠りこけた夫のスマホを開くと、そこには「早くあの女を追い出そうよ」という裕子という女からのメッセージが残されていた。夫は息子に「あいつが出ていったら裕子の好きなようにすればいい」とこの家を語っていた。写真フォルダには、夫と裕子、そして息子が温泉旅館で肩を寄せ合う姿もあった。
ある朝、目玉焼きを差し出した私に、息子は「もう母さんの飯は作らなくていいよ、来月からはもっとうまいもん食わせてもらえるし、俺の本当の親が裕子さんみたいな人だったら良かった」と言い放った。
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