「息子さんには発達の遅れがあります」
診察室で医師からそう告げられた瞬間、私は息ができなくなった。
当時、息子は3歳。言葉がなかなか増えず、同じ年の子が集団で遊ぶ横で、いつも1人で石を並べていた。
頭では「この子はこの子」と思おうとしても、心は追いつかなかった。
幼稚園では、ほかの保護者から「一緒のクラスだと先生が大変そう」と言われた。
公園で息子が大声を出せば、知らない母親に露骨な顔で見られた。
ある親戚には、「次の子を考えたほうがいいんじゃない?」とまで言われた。
私は息子を守らなければと必死になった。
転ばないように先回りし、失敗しそうなことは最初から避けた。人前で迷惑をかけないよう、息子の手を強く握り続けた。
でも本当は、周囲の視線を一番怖がっていたのは私だった。
診断を受けた数日後、私は実家の父に電話した。
昔気質で無口な父が、どう受け止めるのか不安だった。声を震わせながら、検査の結果や医師の説明を伝えた。
「お父さん、この子には障害があるって……」
しばらく沈黙が続いた。
やはり驚かせてしまった。がっかりさせたかもしれない。
そう思った次の瞬間、父は拍子抜けするほど普通の声で言った。
「障害? なんだそれ。関係ない」
「え?」
「お前の息子で、俺の孫だろ。それ以外に何がある」
父はそれだけ言うと、「今度来るとき、あいつの好きな菓子を教えろ」と話を変えた。
電話を切ったあと、私は声を上げて泣いた。
悲しかったからではない。
自分で勝手に背負っていた重い荷物を、父がたった一言で下ろしてくれたからだ。
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