「新人のくせに遅刻。電車の言い訳でも通用しない。ここは結果で並べる者だ。身のほど知れ」
営業部長の森田強志さんは、私にそう言い放った。エントランスホールの時計は、午前9時3分を指していた。
「初日から組織の時計を狂わせるやつに居場所はどこにもない。明日から顔を出すな。今この時点で採用は終わりだ。首だ」
私、石井ゆいな、22歳。
面談も予告もない、通告だけの解雇だった。
「遅刻は申し訳ありません。わかりました」
声は小さかった。涙も、大声の反論もなかった。事情は後で示せる。今ここで口を挟めば、言い訳に聞こえるだけだ。
実は今朝、最寄り駅の階段で女性が転び、手のひらをすりむいていた。私はとっさに彼女の肘を抱えて起こし、駅員に声をかけた。
「大丈夫です。これ以上はご迷惑ですから」
そう言われても、途中で人を放って来ることはできなかった。改札の列は長く、タクシーはどれも満員だった。本社の扉を抜けたとき、時計はちょうど午前9時3分を差していた。
森田さんは私の泥のついた靴を一瞥し、唇の端をわずかに歪めた。
「まあ当然だろ。
時間も守れん新人に用はない。おい、お前ら文句あるか」
誰も声をあげなかった。ただ一人を除いて。
「お待ちください、森田部長」
総務課長の坂本恵さんが駆け寄ってきた。しかし森田さんは振り向きもせず、
「現場の評価権限は私にあります。口を出さないでください。これ以上おっしゃるなら、総務の評価にも影響しますよ」
坂本さんの足が止まった。
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