平日の午後2時、私と妹は融資課長の岸本さんの前に座っていた。
油のついた作業着、化粧のない顔、ペンダコのついた手。町工場の職人だとひと目でわかる格好で、私たちはただ結果を待っていた。
机の上の報告書には、たった一行だけ書かれていた。
「浜野精密工業。従業員3名。月商300万円。融資残高500万円」
それだけで、判断はすでに下されていた。
「わかりました」
私はそう答えた。プレッシャーも涙も、抵抗すらなかった。
「当然だろ。廃業して土地を売った方がいいんじゃない?」
課長室の外から、くすくすと笑い声が聞こえた。
「18歳で職人とか、笑えますね」
誰も私たちをかばってはくれなかった。
「あの、100万個の注文の件は」
妹が震える声で尋ねると、岸本さんは冷たく言い放った。
「ああ、それね。キャンセルになったから。大企業さんが、もっと安い海外の工場に切り替えるって」
納品まであと2週間だった。
「それより、来月までに売上を3倍にしてね。できなきゃ融資停止だから」
妹が私の手をそっと握った。「もういいよ」その目が、静かにそう語っていた。
部屋を出て、頭を下げて廊下に出た瞬間、妹の足が止まった。涙が頬を伝う。
「私たちが未熟だから」
「違うよ。私たちは間違ってない」
エレベーターの誰もいない箱の中で、私たちは抱き合って泣いた。
5年前、13歳のとき、父と母は取引先への納品帰りにトラックに追突され、帰らぬ人となった。それ以来、私たちは祖父と3人で暮らしてきた。高校を卒業したとき、私たちは工場を継ぐことを決めた。
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