俺は佐藤浩一、52歳。
潮の匂いが染みついた体と、古びた漁船だけが今の俺に残されたものだった。
朝の港はいつも同じだ。
昨日釣ったイカを箱に並べ、業者と値段の駆け引きをする。
「これなら三万五千だな」
「冗談言うな、四万は欲しい」
「無理だって」
そんなやり取りを何年も繰り返してきた。
顔馴染みの連中ばかりで、誰も俺の過去なんて聞かない。俺も誰かに話すつもりはなかった。
昔は家族がいた。
妻がいて、娘もいた。
だが八年前、すべてを失った。
離婚して、娘は妻について行った。連絡は途絶え、今では顔すらはっきり思い出せない。
残ったのは借金だけだった。
この船のローンだ。
銀行は待ってくれない。だから俺は昼に寝て、夜の海へ出る。イカを釣って、金を稼ぐ。
それだけの人生だった。
その日の夕方も、俺はいつものように船の点検をしていた。
燃料を確認する。
ライトを見る。
仕掛けを準備する。
何百回も繰り返した作業だ。
「今日も行くか」
誰に言うでもなく呟き、俺は船を出した。
港を離れ、夜の海へ向かう。
波の音。
エンジンの振動。
遠くに見える漁船の灯り。
いつもと同じ夜になるはずだった。
だが、その日は違った。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=6SPkw613C-I,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]