俺の名前は斎藤一馬、56歳。
かつて俺は消防設備設計の世界で生きていた。
建物の図面を読み、火災の危険を予測し、人の命を守る設備を考える。それが俺の誇りだった。現場にも何度も足を運び、炎の怖さも、人間の弱さも知っているつもりだった。
しかし、長年勤めた会社が倒産した瞬間、俺の人生は大きく変わった。
56歳という年齢は、社会では「経験豊富」ではなく、「扱いにくい」と判断されることが多かった。
面接ではいつも同じだった。
「素晴らしい経験をお持ちですね」
そう笑顔で言われる。
だが、その後に続く言葉も分かっていた。
「今回は、もう少し若い方を採用することになりました」
経験にも賞味期限がある。
そう思い知らされた。
十社落ちた。
二十社落ちた。
それでも生活のため、諦めるわけにはいかなかった。
ようやく採用してくれたのは、小さな消防設備販売会社だった。
だが、そこに俺を待っていた仕事は設計でも施工管理でもなかった。
毎日、外へ出て商品を売る飛び込み営業。
若い社員たちの中で、56歳の新人営業マンとして働く日々が始まった。
初出勤の日。
社員全員がフロア中央に集められた。
前に立っていたのは29歳の新任部長、中村だった。
「今日も元気よくいきましょう!」
若い社員たちが大きな声を出す。
「日本一!」
俺も少し遅れて声を出した。
「日本一……」
すると中村が俺を見る。
「斎藤さん、声が小さいですね」
周囲から小さな笑い声が漏れた。
「やる気ありますか?」
「あります」
「なら、もっと腹から声を出してください」
俺は深く息を吸った。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=9vjuO63G_eU,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]