五十八歳の俺は、地方の路線バス運転手として長い年月を過ごしてきた。
毎日、決められた時間に車庫を出て、決められた道を走る。窓の外に広がる景色も、乗り込んでくる乗客の顔ぶれも、ほとんど変わらない。
エンジンの低い音。
ウインカーの機械的な音。
車内に流れる無機質なアナウンス。
いつからだっただろうか。
人と話すよりも、そんな音に囲まれている方が落ち着くようになっていた。
「終点でございます。お忘れ物のないよう、ご確認ください」
いつもの言葉を告げると、乗客たちは静かに降りていく。
それが俺の日常だった。
ただ、その日常の中で、一人だけ気になる存在がいた。
毎日、決まった時間に乗ってくる女性。
年齢は三十歳前後だろうか。
いつも後ろから二番目の席に座り、降りる時だけ小さく頭を下げる。
「お疲れ様です」
たったそれだけ。
特別な会話をしたこともない。
ただの乗客だ。
そう思っていた。
しかし、ある日、その女性が乗ってこなかった。
「あれ……今日は来ないのか」
理由なんてない。
ただ、妙に気になった。
次の日。
彼女はいつもの時間に現れ、いつもの席に座った。
「お疲れ様です」
その一言を聞いただけで、なぜか安心した。
自分でも不思議だった。
たった一人の乗客の存在が、いつの間にか日常の一部になっていたのだ。
そんな日々がしばらく続いた。
そして、ある雨の夜。
その出来事が、俺の人生を変えることになる。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=N06ue7rNdE0,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]