「触らないでください。SFTSの疑いがあります」
動物病院の隔離ケースに貼られた1枚の紙を見た瞬間、胸が締めつけられた。
中にいるのは、つい2日前まで普通に歩いていた猫だった。
最初は、少し元気がないだけだと思っていた。
ごはんを残し、いつもより長く眠る。
ところが翌朝には立ち上がるのもつらそうになり、慌てて病院へ連れて行った。
診察を終えた院長の表情が、それまでとは明らかに違った。
「念のため隔離します。SFTSの可能性があります」
聞き慣れない言葉だった。
重症熱性血小板減少症候群――SFTS。
「昨日まで普通だったのに?」
何度そう聞いても、目の前の猫はどんどん弱っていった。
私はケース越しに名前を呼んだ。
触ってあげたい。
抱きしめてあげたい。
でも扉には、
「SFTS疑い
触るな
院長が世話する」
と書かれていた。
「かわいそうだから、少しだけでも……」
そう言いかけた私を、院長は静かに止めた。
「気持ちは分かります。
でも今は、むやみに触れないでください」
その言葉に従うしかなかった。
そして――わずか2日。
猫は帰ってこなかった。
あまりにも早かった。
昨日までそこにいた命が、突然いなくなる。
頭では理解しようとしても、気持ちが追いつかなかった。
さらに数日後、病院へ研究所から連絡が入った。
検査の結果、SFTSウイルスが確認されたという。
しかも、かなり多く存在していたと聞かされた。
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