「終わった……これ、廃車だ」
玄関を開けた瞬間、私はその場から動けなくなった。
夜中から降り続いた雨で、家の前の道路も駐車場も完全に水の中。
昨日まで普通に停めていた愛車のタイヤは見えなくなり、横に置いていた原付も半分近く水につかっていた。
雨はまだ強い。
水位も少しずつ上がっている。
「嘘でしょ……」
何度見ても景色は変わらない。
慌てて車へ近づこうとすると、夫が止めた。
「危ないから行くな!」
私は玄関先から写真と動画だけを撮った。
時刻は朝6時42分。
この時点で、駐車場全体が茶色い水に覆われていた。
そして1時間後。
さらに水位が上がった。
「もうエンジンまでいってるんじゃない?」
近所の人が言った。
別の人は、
「水が引いたら一回エンジンかけてみれば?」
と軽く言った。
でも私は怖くてできなかった。
すぐ保険会社へ電話すると、
「浸水した車両は、ご自身でエンジンを始動させないでください」
と言われた。
その言葉を聞いて、キーには触れなかった。
午後になり、ようやく雨が弱くなった。
数時間かけて水が引き始める。
残ったのは泥だらけの道路と、変わり果てた愛車だった。
ドアを開けると、嫌な湿気の臭い。
足元には泥水の跡。
シートの下にも水が入り込んでいた。
私はまた写真を撮った。
水位が分かる外観。
車内の泥。
足元。
エンジン周辺。
全部記録した。
翌日、レッカー車が来た。
整備工場の人は車を見ながら、静かに言った。
「これは見た目以上に厳しいかもしれません」
電装系まで浸水している可能性があり、仮に動いたとしても後から不具合が出ることがあるという。
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