「えっ……車、埋まってる?」
霧の濃い富士山5合目の駐車場で、その光景を見た瞬間、私は言葉を失った。
白いワゴン車の周囲には、黒い土砂のようなものが大量に流れ込み、タイヤどころか車体の下半分近くまで埋まっていた。
少し離れた場所には、何事もなかったように停まっている別の車。
その差が逆に怖かった。
「ちょっと近くで見てみようよ」
一緒にいた友人がスマホを取り出しながら言った。
でも私は反射的に止めた。
「いや、行かない方がいい」
辺りは霧で視界が悪い。
斜面には落石防止用のネットが張られていて、足元も雨でかなり濡れている。
何より、車を埋めた土砂がまだ安定しているのか分からない。
見た目だけでは、
「もう止まっているから大丈夫」
と思ってしまう。
でも、山ではその判断が一番怖い。
少しすると、別の観光客も集まってきた。
「すごいな」
「写真撮りたい」
「車のところまで行けるんじゃない?」
数人が近づこうとした時、施設の係員らしき人が大きな声で呼び止めた。
「そこから先、近づかないでください!」
場の空気が一気に変わった。
係員は、
「周辺の地盤の状態を確認しています。安全が確認できるまで入らないでください」
と説明した。
私は友人と顔を見合わせた。
やっぱり近づかなくてよかった。
その後、駐車場の一部には立ち入りを控えるよう案内が出され、車の所有者にも連絡が取られたという。
幸い、車の中に人はいなかった。
それを聞いて、本当にほっとした。
もし車内に誰かいたら。
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